影のMVPトンプソンルーク真摯なタックルの存在感

2017年6月24日味の素スタジアムで迎えたラグビー日本代表とアイルランドのテストマッチ第2戦。結果は13-35の完敗。

第1戦22-50、第2戦13-35とアイルランド相手に連敗。第2戦は前半で8-28と大差が開いてしまい事実上、前半で勝負がついてしまった。

2019年W杯で対戦が決定しているアイルランドの2軍相手(ライオンズのメンバー不在)にこの結果はかなり深刻と言える。もしもフルメンバーで試合をしていたら何点差になってしまったのだろうか。

ただし勝敗はある意味わかりきっていた。当初の実力差を考えれば想定の範囲内とも言える。アイルランドとの過去対戦成績は1985年の初対決から7戦全敗。前回のW杯で大健闘したことで、マスコミはジャパンの実力を過大評価してしまっているが、2軍とはいえ世界ランキング4位、ティア1との実力差を考えれば妥当な点差だろう。

試合開始直後、この日緊急招集されたトンプソンルークが強烈なタックルでボールを奪うが、不用意なパスで先制トライを奪われる。テレビで解説者が「アンラッキー」とコメントするのを見ていて呆れた。どこがアンラッキーなのか。明らかにパスミスだ。

それにしても、80分間を通じてトンプソンルークの存在感が際立っており、改めてその偉大さがわかった試合だった。トンプソンルークのタックル数は両チーム合わせてもトップの24回。期間限定の復帰なのが惜しい。

強豪アイルランド

過去8大会すべてのW杯に出場し、6回のベスト8を果たした強豪。2016年11月5日におこなわれた世界ランキング1位ニュージーランドとのテストマッチでは、ニュージーランドが誇る連勝記録を18でストップさせる。

2017年3月18日におこなわれた世界ランキング2位のイングランドとの試合においても、イングランド連勝記録を18でストップさせた。強豪を次々と破り、史上最強との呼び声も高い。

トンプソンルークの仕事

2015年W杯終了後に代表引退を表明したが、指揮官の要望に応え再び代表に復帰。負傷者が続出したことでの急遽の合流。若手主体のチームにフィットするのか心配する声もあったが、36歳のベテランの仕事ぶりに脱帽した。

おそらく15人の中で求められている仕事を一番理解していたのがトンプソンルークだろう。試合前インタビューの「自分の仕事をやるだけ」とのコメントにも表れている。黙々と課せられた仕事をこなす姿に、歴代の指揮官が惚れたのも頷ける。

目の肥えた玄人ファンからは2015年W杯の影のMVPと評され、献身と讃えられたタックルは健在だった。

トンプソンルークの経歴

トンプソン ルーク Luke Thompson

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母国ニュージーランドでは各年代で州代表に選出されていたが、196cmという身長は国際クラスのロックにあっては決して大きくない。同世代に才能豊かな選手が集まった黄金世代であることが数年後のオールブラックスを見ればよくわかる。

フランカーのポジションにはオールブラックスのキャプテンで英雄のリッチー・マコウ(1980年12月31日生まれ)など才能ひしめく選手が揃っていた。

2004年に来日。まだ22歳。当初は日本でラグビーキャリアを積んで、いずれはニュージーランドに戻ろうと考えていたに違いないが、日本のラグビー界は彼を欲した。ファンは彼を愛した。彼も日本を愛し、2010年に帰化。祖国ではチャンスに恵まれなかった彼は日本で桜を背負うことになる。

2007年、2011年、2015年と3大会連続でジャパンに選ばれ続け、2015年では世界の猛者相手に、日本ラグビー史に残る決定的な仕事をした。

最後に

考え方を変えると4人目、5人目のロック候補が日本人にいないことが露呈されたとも言える。人材不足が表面化しただけに、トムの復帰は素直に喜べない。ワールドカップの行方を占う前哨戦、2年後の大一番を控えて課題だけが残った印象だ。

36歳のベテランが鋭いタックルと安定したセットピースで存在感を示したことに危機感をもつべき。愚直に勇敢に激突する選手は消えてしまったのか。