アラサー女子のリアルで普遍的な姿を描く『おんなのいえ』

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『おんなのいえ』は、鳥飼茜原作の漫画です。アラサー女子の有香は、大阪の実家を出て東京で恋人と同棲しています。そろそろ結婚を考えていましたが、突然恋人から別れようと告げられることに。アラサー女子のリアルな日々を描いた本作の感想をお届けします。

『おんなのいえ』とは

大阪出身の作者が描くリアルなアラサー女子の物語

『おんなのいえ』は『このマンガがすごい!2014』のオンナ編第9位にランクインしている作品で、第39回講談社漫画賞・一般部門のノミネートもされました。2012年より『BE・LOVE』(月2回刊、1日・15日に発売:講談社)にて連載開始されており、2016年現在において単行本が6巻まで発行されています。

作者は大阪出身なのですが、同じ関西の京都を舞台にした『おはようおかえり』、『ドラマチック』『わかってないのはわたしだけ』などが代表作にあり、今はリアルなアラサー女子の日常を描いた『おんなのいえ』以外に祥伝社の『FEEL YOUNG』にて『地獄のガールフレンド』、講談社月刊モーニング・ツー』にて『先生の白い嘘』を同時連載しています。『先生の白い嘘』はフリースタイル発行の「このマンガを読め!2015」で第8位を獲得しています。

『おんなのいえ』あらすじ

大前有香は大阪から東京に出てきて、現在は恋人の松谷圭佑と同棲生活を送っています。最初は自分のしていたデザインの仕事でも夢がありましたが、恋人の夢を支えるために仕事を辞めていたのでした。知り合って10年、つきあって3年、そして同棲して3年目を迎え、そろそろ結婚したいと思っていたのです。けれど、突然恋人から別れを切りだされたのでした。

29歳で無職で恋人からもフラれた有香。傷心のまま大阪の実家に戻れば、母親から嫌味っぽいことを言われて体調まで崩してしまいます。しかし、母親に励まされ(半ば脅されるように)妹のすみ香と一緒に暮らしてなんとか頑張ろうと再び東京に向かうのでした。

『おんなのいえ』の登場人物紹介

本作に登場する主な登場人物たちをご紹介致します。イメージ画像とともにお楽しみください!

大前有香|彼氏に振られたばかりの29歳

本作の主人公、大前有香は29歳独身女性です。3年間同棲していて結婚まで考えていた恋人にフラれてしまいます。恋人の夢が叶うようにと自分の好きだった絵を描く仕事も辞めて、「彼の夢が叶うことが自分の夢」のように思えていたのですが、それをおかしいと恋人に指摘され、別れを切り出されたのでした。

高校の同級生に会えば、すでに友達は主婦となってて一児の母親になっていたりして、自分と友人の何が違ってこんな対極的な人生を送っているのかと考えたりもします。母親に対してとても弱く、母親命令にはずっと逆らえずに生きてきた娘で、初めて反抗したことが上京生活だったのでした。

大前すみ香|有香の妹で有香と同居

すみ香は有香の妹で25歳。妹によくありがちな気質の持ち主で、とても要領が良い女性です。要領が悪く母親命令に逆らえずにやりたいこともなかなかできずに生きている不器用な姉を冷静に監察しており、母親に頼まれて上京することに決めたのも、姉の観察をすることが楽しみだった部分もあるという、ちゃっかりして器用に物事を立ち回る人物でもあります。けれど、綺麗ごとを言って別れた姉の恋人の松谷が、実はすでに恋人がいたことを隠したまま別れていたことを知った際には、怒りまくって殴り倒す姉妹愛も持っています。

川谷直幸|有香の就職先の取引相手

有香が妹のすみ香が受けるはずだったキャバクラのバイトに頼まれて行かされ、本来なら落ちるはずだったのを採用されてしまい、仕方なくキャバ嬢になって働いていたところに客として現れたのが川谷です。傷心の有香を慰めてもくれます。そして有香が印刷会社に就職した時は、顧客としても再会することに。川谷は結婚していますが、不妊症に悩む妻がおり、結局妻から離婚をしてと謂われることになるのでした。

マコちゃん|バイセクシャルで、すみ香の友達

すみ香が上京してきた際に知り合ったゲイの男の子のマコ。最初はゲイとだけ告げていましたが、実は女性もOKなバイセクシャルだったことが発覚します。男も女も愛せるということで、婚約していた恋人もいましたが相手の親がバイセクシャルのマコを許せず、婚約破棄になった過去を持っています。婚約破棄のことですごく傷ついてしまったため、誰とも恋人にならない、結婚なんか考えないようになっているのでした。

大前香織|お母さん

有香とすみ香の母。長年別居している夫がいて女の意地だったからなのか、離婚届けに判を押していませんでしたが、15年目になって離婚届に判を押すことにします。どうして今だったのかは本人にもわからず、とりあえず変わりたいと、いまさらだけど思い始めたからでした。とある日、家の中で骨折して入院した際には見舞いに同級生だった男性が現われたりして娘たちを驚かせます。変わりたいと思い始めた香織も、それなりに変わっていくのです。

大河内|有香の見合い相手、弁護士

有香が就職した印刷会社の社長から勧めれた見合い相手。弁護士で太目。女性とつきあったことが今までないけれども、性格は悪くなく、有香の母親・香織が骨折で倒れて大騒ぎになった際もお金を貸してくれるなどかなり優しい男性です。

松谷|有香が10年同棲していた男性

有香の元恋人の松谷。3年間同棲していましたが、新しい恋人ができた(どうもすみ香の推察では有香とつきあっていた時期が被っている)こと、有香の自分への想いが重くなりすぎたことなどなどで、別れを切り出しました。新宿の喫茶店で新しい女性と一緒にいるところをすみ香に見られて、公衆の面前で殴り飛ばされるのでした。

心理状態にリアルさを感じる

主人公の気持ちに共感してしまう

アラサーで彼氏に振られ迷走する主人公の心理が、けっこうリアルに描けている。大きな盛り上がりはないんだけど、つい続きを読みたくなる感じ。

出典: bookmeter.com

ちょうど読んだ時に自分が同じような境遇だったのですごく感情移入しましたw

出典: bookmeter.com

『おんなのいえ』ですが、アラサー女子がヒロインなためか、「痛い」「よくわかる」「刺さってくる」という感想、「共感できる」「リアルで共感できる」という感想がとても目立ちます。雑誌の購読年齢層が20代以降が中心なためなのかもしれません。また、作者の鳥飼茜がもともと描いている作品の多くが「痛い」「刺さる」という感想が多いリアリティ溢れる描写が多いことで定評があるからかもしれません。

アラサーで彼氏がおらず、無職でという実情を考えるとさすがに痛いヒロインだなと思うのですが、それだけでなくヒロインが母親に対する思い(親には逆らえない長女気質)、年齢のことなどから結婚を意識して生きてしまっていた部分、これからどうすればいいのかと迷走する気持ちなど、同じ年代の女性にはそれこそ突き刺さるようなリアリティを感じさせるのだろうと思われます。

男が読んでも理解できる部分がある

僕は男なので中々理解しにくいところもありましたが、望んでない行為を相手にお前のためにやってるんだと押し付けられると嫌な気持ちになるのはとても痛いほどにわかりました。

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俺は男だが、この話がめちゃめちゃ生々しいのはわかる!!(笑) なんか男女が別れる時っていろんな「負」の感情がうまれるよね。 同性が読んだら色々イタイ作品じゃなかろうか・・・。

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男性が女性マンガを読むことも珍しくなくなりましたが、本作も男性読者の感想が寄せられています。ヒロインと同年代の読者もいるようで、有香が恋人のために自分の夢より恋人優先になっているところ、食べものびとつ気を使って合わせようとするところなど、恋に浮かれているときはなんとも思わなかったことも次第に重くなるだろうという見方、男女が別れる時は「負」の感情が生まれて当然だろうという見方をした方もいたようです。中には「別れても良い友達で♪」などという方もいるかもしれませんが、そういう人はあまりいないのではないのかなと思うのですよね。

特に長女の女性に読んでほしい!

「妹のように要領よくなれない。。」というコンプレックスをもったお姉さんタイプにおすすめです。

出典: www.amazon.co.jp

私も女の多い家庭で、主人公と同じ長女なので考え方とか共感するところがあるかも。

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ヒロイン・有香が長女気質で親に逆らえず生きてきている描写があったり、自由気ままな妹を羨む描写があるためか、「長女の方にお勧めしたい」「同じ長女だから共感できる」という読者も多いです。女系家族の方も共感できる部分がかなりあるようです。確かに上の子供って要領悪かったり損だなと思うことが多いと聞きます。

後に生まれた子供は上の兄弟が親に叱られている姿を見て学んで、親に怒られないようにふるまったりもすることも多いために、要領が良い、ずるい、と上の兄弟たちは思ったりするのでしょうね。けれど兄弟仲は悪いわけではないのが一般的だろうと思われます。

身近に感じさせる日常感

関西弁が明るくていい

へビーな話だけど、関西弁の母子の会話がちょっと笑えて救われる

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関西弁が明るくていいなあ。

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母親も長い別居の果てに離婚、長女は30歳を手前にして失恋して、無断で連絡もせずに帰省していたために無職になりという一見ヘビーなこともあるのですが、それを払拭してくれるのが有香たちが使う関西弁です。作者が大阪出身ということで作品で関西を舞台にしたものもありますが、今回も彼女たちが東京にいても生き生きと関西弁を使っているので、それが救いになっている印象を与えているようです。読んでいて関西弁特有のイントネーションが脳裏に浮かんでくるからでしょう。

どこにでもありそうな風景

どこにでもありえそうなリアル感が面白かったです。家族の関わりや恋愛など、大人になればなるほど複雑に難しくなってしまう気がしますね。

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おんなばかり 母、姉、妹のおはなし。 大阪弁で交わされる 日常の会話は 懐かしく明るい。 行先がみえない姉あり香 冷静だけど母姉思いの妹すみ香 やっぱりうっとしいけどじぶんに似ている母 なんか懐かしい。 もっとどんどん読みたい。

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関西弁で言葉は違えど、描かれる日常の風景がリアリティがあって身近に感じさせ、なおさら作品に興味を抱かせ、読むペースを早めてしまうようです。女性だらけの家族の姿を描いてはいますが、家族の関わりかたや恋愛はさほど変わらない部分があるからでしょうし、そういうものを自分に重ねて読んでしまう方もかなりいるようです。

女という生き物

30歳を過ぎたら女は終わるのか

泣きそうになった。あり香に対する周りの反応!自分が言われているかのように辛くなった。苦しいぞ。30歳を過ぎた女って言うのは、もう終わってるのか?それなのに、平均年齢の高い会社では30は若いんだからと言われ。なんなんだ!と思う。

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そんなに三十路になるということ、女性の三十路は女として終わるのか?男だって二十代と三十代では違うだろうに。女のほうが平均寿命では長生きなんだから、せいぜい馬鹿にしておけと言いたくなる。

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有香はすみ香に頼まれてキャバクラの面接に行った際に、支配人らしき男性から29歳という年齢にかなり固執した言い方をされます。29歳なんてもう30歳と一緒だからなあというような否定的な表現をされます。世間ではアラサーが生き生きと活躍しているのに、女性として終わっている扱われ方をする世界もあることを目の前で知らされて有香は愕然とするのですが、そういう描写や心理に複雑な反応をされたアラサー女子もいるようです。

これは20代前半や10代の女性にはまだまだ理解しがたいことかもしれませんが、有香と同じ20代後半、そして30代の大人女子にはかなり突き刺さることだと思います。男性だと30代、40代は男盛りと称されるのに、女性の30代というと「おばさん」と言われることもあったりして、どうして性差でこうも違うのかと思わされることもあると思うのです。怒りさえ感じる感想も見かけました。

幸せになりたいのにいろいろ考える

有香がよくわかんない言い訳で弁護士の大河内さんをフッていたけれど、なんだかんだ言って大河内さんがテフ眼鏡(諸事情により濁点を抜いております)だからだと思う。

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ありちゃん、最後、別にそこじゃないでしょ?川谷さんが手に入らなくて、今は手に入りそうというか寄ってきてて、でもどうなんだろう?って疑問に感じてしまってて、そのタイミングできたから幸せだったあの頃がある人に戻りたかったんでしょ?違うよー、それもこれも、すすむしかないんだよー!がんばれ!

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年齢のこともあってか、ヒロイン・有香は気乗りしないまま見合いもします。心惹かれていた川谷が既婚者ということもあってのことだったのは読者にもわかるのですが、見合い相手の容姿からしても有香がときめいていないことが手に取るようにわかるので、無理に突っ走るなと思う方、理解できないと思う読者も多いようです。

何かの統計かわかりませんが、TVの討論番組などで面白おかしく「35歳以上の独身女性がこれから結婚できる確率が1%」という発言を見かけたことがあります。結婚希望の初婚男性の大多数が子供を望んでいるので30才未満を相手の女性年齢を希望する人が多く、長い交際を経て出産が難しくなってきた年齢の女性が彼氏から「オレはやっぱり子供が欲しいんだ。だからそういう相手と結婚したいんだ」と言われるケースが多いということらしいです。

高齢出産にはリスクも伴いますし、妊娠・出産のことは女性には大きな問題だと思います。まだ有香はアラサーなので出産のことを考えると十分間に合う年齢なのですが、女性が幸せになるということはどういうことなのだろうと、本作を読みながら考えてしまう方もいるのでしょうね。

女ってめんどうくさい

ほんま女って面倒臭いなーって思う。同じ女でも思う。でも楽しいことも多い。

出典: bookmeter.com

ホントに大人の女はめんどくさいよね。でもそこがいいんだ!

出典: bookmeter.com

本作を読みながら、迷走する有香、バイセクシャルに入れ込んでしまうすみ香に自分を重ねながら、「女ってめんどくさい」と共感してしまう声も多いです。確かに面倒くさい生き物だなあとライター的にも感じることがあります。

学生時代にはさほど感じなかったことも大人になると嫌でも意識させられることも生きているとあります。もちろん学生時代でも「女って面倒だなあ」と思うことはあったのですが、社会に出るとまた違った角度でそう思わされた方も多いのではないでしょうか。けれど、女性に生まれてこれてよかったと思う瞬間も確実にあるとも思うのです。

作者は女性に嫌悪感を抱きつつ描いている

作者の鳥飼茜は女性ですが、インタビューで女性に嫌悪感を抱きつつ描いているというようなことを答えているそうです。そしてまだまだ不自由さを感じる女性たちの救いになったらいいなと思い描いているとも答えているとか。女性らしさとはなんだ、女性の幸せを形にあてはめないでほしい、女性に求められる規範がすべて女性に幸せをもたらすものではないのだと。

一見選択肢が増えてきたように見える女性の生き方。20年前くらいは25歳過ぎても未婚でいると「売れ残り」「オールドミスの仲間入り」などと言われていた時代と比べたらまだいいのだろうといった発言しているのも討論番組で見かけたことがありますが、まだまだ作者が思うように不自由なことも多いように思えます。

また女性特有のいやらしさは同性でも嫌悪感がありますが、それも自分だって持っているものだと女性たちが思うことでしょうし、男性だって男性の嫉妬など見苦しいものがあるなど、同性ならではの嫌悪感はつきまとうものだろうと思います。

まとめ──まだまだ迷走中の主人公

有香はまだまだ自分の幸せを求めて迷走中です。それでもなんとか少しずつでも変わりたい、けれどどうしていいのか自分でもわからない状況にあります。心惹かれない相手でも経済面を考え、性格は良いから結婚するべきなのか、それとも心惹かれる相手と結婚するべきなのか。今後が気になるところです。

アラサー女子で未読の方、その年代前後の方で本作を未読な方は、このリアリティあふれる作品をぜひ手に取られてみてください。何か心に突き刺さるものがあるのではないかと思います。また関係ない年代の方も女性とはなんだろうと思う描写、家族とはなんだろうと考えさせられる描写もありますので、ぜひ手に取られてみていただきたいと思います。

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