再注目したい100M男子日本代表と世界との距離

桐生祥秀選手の記録から再注目したい日本を代表するスプリンターと世界との距離をまとめました。

15分早ければ…日本初の9秒台を逃した桐生祥秀の不運

陸上の織田記念国際(4月29日、エディオンスタジアム広島)は歓声とため息が入り交じっていた。16年リオ五輪400メートルリレー銀の桐生祥秀(21)=東洋大=が10秒04を出したが、不利な向かい風が0・3メートル吹き、日本初の9秒台突入はお預けとなった。桐生は10秒16で走った予選も同じ向かい風0・3メートルだった。

2013年4月29日の織田記念100m予選で100秒01を記録して以降、常に注目されるようになった桐生祥秀選手。京都の洛南高校3年時に出した記録10秒01は日本歴代2位であり、日本ジュニア記録と日本高校記録を更新した。

あれから4年が経過した現在も自己最高記録10秒01の記録(※)は破れず、9秒台の壁が高いことを改めて教えてくれる。

約20年間破られていない日本記録

四継 2016リオ五輪、彼らの真実 (Sports graphic Number books)
 

日本の100M記録は1998年12月13日に記録された伊東浩司選手の10秒00。約20年間も破られていない不動の記録である。現在のリオデジャネイロオリンピック4×100mリレー銀メダルを獲得した選手の自己ベスト記録を改めて確認した。

桐生祥秀:10秒01(2013年4月29日)日本歴代2位

山縣亮太:10秒03(2016年9月25日)日本歴代4位

ケン飛鳥:10秒10(2016年5月21日)日本歴代9位

飯塚翔太:10秒22(2013年9月6日)

いずれも9秒台に限りなく近いが、あと一歩の記録に20年以上かかっており、陸上選手にとってその一歩がとてもつもなく遠いものだと再確認させてくれた。と同時に一つの疑問が浮かぶ。

「9秒台を出したら世界大会で勝てるのか?」という疑問。世界主要大会の準決勝の決勝通過タイムを調査しました。

※ケン飛鳥=ケンブリッジ飛鳥

世界主要大会の決勝通過タイム

2008年北京五輪 準決勝1組10.01、2組10.03 ※準決勝通過基準:各組上位4名

2012年ロンドン五輪 準決勝1組9.94、2組10.02、3組9.90 ※準決勝通過基準:各組上位2着+記録上位2名

2013年世界陸上-モスクワ 準決勝1組9.97、2組10.00、3組9.97 ※準決勝通過基準:各組上位2着+記録上位2名

2015年世界陸上-北京 準決勝1組9.99、2組9.86、3組9.99 ※準決勝通過基準:各組上位2着+記録上位2名

2016年リオデジャネイロ五輪 準決勝1組9.98、2組10.01、3組10.01 ※準決勝通過基準:各組上位2着+記録上位2名

世界との距離

ここ数年の世界大会での決勝通過タイムは9秒97~10秒00ということがわかる。つまり9秒99という日本記録を出しても、オリンピック決勝に必ず残れるとは言いきれないのだ。絶対とは言えないが9秒96が出せれば安全圏といっていいだろう。

山縣亮太選手は2016年のリオオリンピックで10秒05と自己ベストを更新した。土壇場で自己ベストを記録する勝負強さを評価すべき一方で、自己ベストを更新しても敗退するという絶望感も味わった。

いま世界記録は2009年世界選手権男子100m決勝でウサイン・ボルト選手が出した9秒58。異次元の記録だ。日本人が9秒台にもがき苦しんでいるときに世界との距離は着実に広がってしまっている。

まとめ

これまで9秒台をだせると言われてきた選手はいた。末續慎吾や江里口匡史など学生時代に日本歴代10傑以内の記録を打ち立て、将来を大いに嘱望されたが、それでも9秒台の壁は厳しかった。

いま日本のスプリンター達は歴代最強と呼ばれている。9秒台を目にするのは言葉にならないほどあと少し。目に見えない薄氷の壁。数年以内に必ずや9秒台の記録を出す選手が現れることに期待したい。